夜勤交番

八神 はぁ〜・・・こんな片田舎じゃあ交番の夜勤なんて暇だよな・・・仕事熱心な俺とはいえ、この時間の空きはどうしようもないな・・・どうせ何もないだろうし、テレビでも見ようかな・・・スマホスマホっと・・・。

(ピッ)『すると・・・そこにいたの男の子は、悲しげな表情を浮かべ、すぅーっと消えてしまったのです。後から分かったのですが、この山では数年前、遭難した男の子が亡くなったそうです・・・もしかすると、誰かにその苦しみを伝え』(ピッ)

八神 ・・・1人でいるのに変な番組見ちまったなあ・・・あぁ〜、周りに街灯すらないし・・・だから夜勤は嫌なんだよ・・・早く朝にならねえかな・・・。(プルルルル・・・プルルルル・・・)お?電話?何か事件かな?(ガチャ)はい、こちらはやぶさ交番です。

綿谷 あ、つながった・・・。

八神 そこに驚くなよ。

綿谷 あの〜すみません警察ですか?お暇しているところ申し訳ありません。

八神 何で暇してるのばれたんだろう・・・?それよりどうされましたか?落し物ですか?

綿谷 いや、迷子を見つけたので取りあえず電話したんですけど。

八神 迷子ですか?それで電話を?

綿谷 そうです。ほら、最近迷子の子供と遊んでいたら、不審者扱いされて死刑宣告を受けたなんてニュースをよく耳にするじゃないですか?

八神 途中まで筋が通ってたのに・・・可能性としてあるのは、私がニュースに疎いのか、あなたが適当を言っているかですね。

綿谷 間を取って中者の意見ですね。

八神 確実に後者です。2つしか選択しないのに真ん中が発生するとはこれいかに。1回話を元に戻しましょうか。

綿谷 まさかの会話が迷子になるというね。

八神 ちょっとだけ上手いな・・・それにしてもこんな夜中に迷子かあ・・・。

綿谷 そうなんですよ。周りを見ても人っ子ひとりいないし、どうしようかと思いまして。

八神 子供がこんな時間に外にいるなんて危ないですね。では私が今からそちらに向かってその子を保護いたしますので、今いる場所の住所とか分かりますでしょうか?

綿谷 それが、僕もこの町の人間じゃないんですよね。住所とか番地が分からないんです・・・。

八神 なるほど・・・では、周りに何か目印になるような建物とかありませんか?

綿谷 目印ですか・・・楓・・・楓・・・楓・・・楓・・・。

八神 ・・・はい?

綿谷 楓・・・楓・・・椿・・・楓・・・こんなところですね。

八神 ・・・森の中ですか?

綿谷 え?何でわかったんですか?っていうか分かったなら迎えに来てほしいです!

八神 いや〜、ちょっとその情報だけだと厳しいですね〜!っていうか、何で森の中に入ってるの?

綿谷 本当にそうですよね〜。こんな時間に森の奥深くに入ったらこうなるって何で分からないんですかね〜。

八神 ・・・今のは子供じゃなくてあなたに言ったんですけど。歳喰ってる分あなたの方が異常に映ってっからね?

綿谷 それよりもどうすればいいんでしょうか?下手すれば森から抜け出すのも困難なんですが・・・。

八神 早急にあなた自身が迷子だという認識を持ってください。

綿谷 分かりました。ゴホン!私、綿谷潤は!迷子ですっ!!

八神 あぁ〜・・・!(しかめっ面で左耳を押さえている)

綿谷 あ〜、いやでも僕ももう30歳だからなあ・・・子供ではないなあ〜・・・迷える子供だから迷子、迷える大人だから・・・迷大!?

八神 うるさい。とりあえず、あなたもそうですが、一緒にいる子供の方も心配ですね。綿谷さん、お子さんの状態はどうですか?

綿谷 何で僕の名前が綿谷って知ってるんですか!?

八神 たった今認識する時に宣言していたので。子供の方は?

綿谷 あぁ、そうだった・・・先月妻の実家に帰りました。

八神 ・・・いや、綿谷さんの実の子供さんの話ではなく!

綿谷 あぁ!そうか!今一緒にいる子供の事ですか・・・暫くほったらかしていたからちょっと離れた所に。

八神 構ってやれよぉ・・・!その子の名前とか分かりませんか?もしかしたら迷子の問い合わせが別の交番に届いているかもしれないので。

綿谷 あ、今聞いてみますね。もしもしお嬢ちゃん?お名前は〜?

八神 まだ名前聞いてなかったのか・・・。

綿谷 そうなんだ!へぇ〜・・・おいくつですか〜?そうですか〜!へぇ〜!!

八神 ・・・。

綿谷 あぁ、そっかぁ・・・でも大丈夫だよ!お兄さんが付いてるから・・・いや、おじさんじゃなくて・・・お兄さ・・・いや・・・うん!おじさんが付いてるから!

八神 押しに弱いなあ・・・!奥さんに出て行かれた時もこんな感じだったのかなあ・・・綿谷さん、そろそろその子の情報を教えていただけますか?

綿谷 ふぇ?あぁそうだった!そのために色々聞いたんだった・・・早く八神巡査に迎えに来てもらおうね。

八神 そっちは何で俺の名前知ってんだよ?しかも階級まで当ててきやがった。暇していたことといい、こっちの秘密がだだ漏れの可能性大だ。

綿谷 えっと、この子の名前は竹下ミツオって言うそうです。

八神 さっきお嬢ちゃんとか言ってたじゃんか!

綿谷 小さい子供って男女の区別つかない事ってありますよね?

八神 ん〜、まあ言われてみればそうか・・・さっきおいくつですかって聞いてたみたいですけど、何て答えてましたか?

綿谷 24です。

八神 !?

綿谷 ・・・とうぇるぶ、あんど、ふぉー。

八神 いや、それだと12と4になるから・・・え!?年男!?厄年なの!?

綿谷 ・・・あ、違いますよ?嫌だなあ、24って言うのはミツオくんの靴のサイズの事ですよ。

八神 何でそれを聞いたんだよ?・・・そんで足のサイズ24ってことはもうそこそこ大人なんじゃないの?

綿谷 足のサイズがじゃなくて、靴のサイズです!足のサイズは分からないです!

八神 めんどくせえ。足のサイズはさておき、その子の歳を聞いてくれよ。

綿谷 あぁ、年齢か・・・ミツオちゃん、何歳?・・・7歳だそうです。

八神 そうかぁ・・・見た目に何か特徴はありますか?服装とか、髪型とか。

綿谷 見た目にですか・・・髪の毛はちょっと長めですね。そろそろ切ろうかなって思ってます。上はグレーのウィンドブレーカー、下は青のジーパンです。コーディネート的にはいまいちだと思うんですけど、フラッと表に出るだけだったからこれでいいかなって思ってこの服装にしました。

八神 ・・・てめえのじゃねえよ!

綿谷 えぇ〜・・・でも、僕も客観的にみて行方不明者なんだから服装とか分かっていた方がいいかもしれないんですけどぉ・・・。

八神 まあ・・・ね。急に正論をほざいてきたのがムカつく・・・!あとで消火器かなんかで殴ってやるからな!

綿谷 怖っ!

八神 とりあえず子供の安否の方が重要ですから、ミツオくんの恰好を教えてください。

綿谷 髪の毛はちょっと長めですね。そろそろ切った方がいいなって思います。上はグレーのウィンドブレーカー、下は青のジーパンです。コーディネート的にはいまいちだと思うんですけど、フラッと表に出るだけだったからこれでもいいかなって思える服装です。

八神 完全に同じ恰好じゃないか!?

綿谷 びっくりしましたよ〜!僕もこんなところに化粧台があるんかーい!ってツッコミを入れましたからね。

八神 子供相手にそのセリフは中々の度胸ですね。

綿谷 キョトンとしていましたよ。彼も僕も。

八神 何で自分まで狐につままれた状態になってんだよ!?自爆じゃないか。他に何かミツオちゃんに特徴はないでしょうか?

綿谷 あと特徴と言えば・・・足が無いですね。

八神 ・・・は?

綿谷 ミツオちゃんは、足が無いです。

八神 ・・・ああ、家に帰るための車とか自転車が無いってことね?

綿谷 は?何を言っているんですか?足って言うのは、フット。歩くときに使うやつ!

八神 ・・・あれ!?急にバカにされてる!?

綿谷 だって、足が無い人はあっても、足を知らない人は初めてですから。

八神 だから足は知ってるよ!・・・えぇ〜っと、ここにきて状況が読み込めなくなったんですけど・・・。

綿谷 勘弁してくださいよ〜!僕とミツオくんは、楓ばっかり生えている森の中で全く同じ恰好で迷子になっているんですよ!たまたまミツオくんは両足が無いだけなんです!

八神 ・・・いや、靴!靴って言ってたじゃんさっき!

綿谷 靴は手に持っているだけで、履いてはいないです!

八神 ・・・あ〜・・・あれか・・・怖いやつか?

綿谷 怖いやつ?

八神 ・・・お化け?

綿谷 幽霊だと思います。

八神 ほとんど同じだわ!怖い!凄い怖い!そういうのやめて!!

綿谷 でも、何にも怖くないですよ?よく見たら額から流血しているけど。

八神 もっと早い時点で教えてくれ!まず真っ先に伝えるべき情報だろそれ・・・っていうかこれ警察の管轄か!?

綿谷 こうなってくると迷子の意味が僕とミツオくんとで変わってきますね。

八神 だから迷子に絡めた上手いこと言わなくていいって!!

綿谷 取りあえずこのままだと埒があかないので、歩いてみますね。まあ、ミツオくんは空中浮遊してますけどね。

八神 いや、大丈夫なの!?真横に幽霊がいる状態なのに大丈夫なの!?

綿谷 ちょっと寒いですね〜。もう少し厚着しておけばよかった。

八神 寒気は別の原因にある気がするんだけど・・・。

綿谷 よっと、おっと危ない!ミツオくん!ここは木の根っこが盛り上がっているから気をつけてね!あ!足が無いんだったね!ははっ!

八神 そういうジョークは大丈夫なの!?

綿谷 よいしょっと・・・あ!森を抜けて道に出た!やったね!

八神 行方不明の点は解決できたかもしれないけど、それより大きな問題が発生してるじゃないか・・・。

綿谷 しかし、目印になるようなものが無いというか、なんだか霧っぽい気がするなあ・・・?

八神 霧?

綿谷 それになんだか変なにおいが・・・う〜ん、あ、灯りがあった!なんだろう・・・はやぶさ交番・・・?

八神 え?・・・すぐそこか!ちょっとそこまで来てください!

綿谷 じゃあ1回電話を切りますね!(ピッ)

八神 (ツー・・・ツー・・・ツー・・・ガチャ)・・・本当に彼を呼んで大丈夫なんだろうか・・・。

綿谷 ・・・着いたー!

八神 うおぉ!びっくりした!・・・あ、貴方が綿谷さんですか?

綿谷 何で僕の名前知ってるんですか!?

八神 さっきのやり取りもう忘れたのかよ?

綿谷 ・・・あぁ!そうだった!宣言したんだった!

八神 忘れっぽいですねえ・・・ってあれ?

綿谷 どうしました?

八神 ・・・ミツオくんは・・・?

綿谷 え?

八神 ミツオくんだよ!ミツオくん!貴方が見つけたっていう子供だよ!!

綿谷 ああ、いるじゃないですか?そこに。

八神 ・・・どこだよ!?

綿谷 あっ!ミツオくん!机の下に潜り込まない!

八神 ・・・あれか!俺には見えないパターンか!?怖い怖い!!

綿谷 ロッカーの中に入り込まない!

八神 うおぉ!ロッカーが開いた!何やってんだよ!?

綿谷 テーブルの上で暴れない!

八神 わんぱくか!見えないのをいいことに好き放題やってるんじゃねえよ!

綿谷 お化けとは思えないフットワーク・・・まあ、足が無いんだけどね。

八神 そこを徹底していじるのやめろよ!

綿谷 でも、お巡りさんがミツオくんを見れないのは何でなんですかね〜・・・。

八神 まあ、あんまり言いたくないんだけど、そう言うの見える能力があるかないかの話だと思うけど・・・。

綿谷 切ないですね・・・ミツオくんはこんなにもお巡りさんを見つめているのに。

八神 そう言うの言うのやめて!俺としても対応に困るわ!

綿谷 ・・・見つめ返せばいいんじゃないですか?

八神 こっちからは見えてないんだけどなあ・・・。

綿谷 とりあえずやってみれば?ほら、あの神棚の上にいるから。

八神 なんちゅう所にいるんだよ・・・。(ジー・・・)

綿谷 ・・・ショコタンかっ。

八神 え!?なんで!?何で叩かれたの俺!?

綿谷 だってミツオくんの股間ばっかり見てるんですものぉ!嫌だわぁ〜!

八神 何でおネエ口調になった!?って言うか意図して見てねえから!そんでツッコミ間違ってるぜ!?別にアニメの事とか言ってねえから!

綿谷 ああ、中川翔子さんじゃないですからね。ショタコンって言わないといけなかったのか。

八神 そうだよ全く・・・ショタコンじゃねえわ!

綿谷 それよりも、この子の引き取り先は見つかったんですか?

八神 う〜ん・・・まだ探してもいないんですよね・・・というか、この場合どこに聞けば良いのやら・・・。

綿谷 確かにそうですね〜。僕もちょっとお手上げなんです。

八神 とにかく警察がどうにかできる問題ではないような気がするなあ。

綿谷 そんな!あの森から抜け出てこの交番に辿りつけたって言うのが既に奇跡に近いのに!

八神 ま、まあ確かに奇跡的な確率だったけどな・・・ってか綿谷さん、しょっちゅうそう言うの見てるの大変ですね・・・。

綿谷 ですね〜・・・え!?な、何で僕がしょっちゅうそう言うのを見るっていうの分かるんですか!?

八神 いや、さっき電話口で、「足が無い人はあっても、足を知らない人は初めてですから。」って言ってたから。

綿谷 ・・・あ。

八神 うん、しょっちゅう足の無い・・・その、お化けを見てるんだと思って。

綿谷 あぁ〜、そう言えば言ってました!

八神 ・・・大変ですね。

綿谷 まあ、職業柄慣れましたよ。こちらに危害を加えるっていう輩は少ないですから!森の中にも後2、3人はいたと思います。

八神 職業柄・・・って、何でそんないっぱいいるんだよ〜?

綿谷 どれも女の子で、同じ名前でした。

八神 ・・・楓ってそういうこと!?何か知りたくなかったわ!・・・そんで、なんでそういう人たちは成仏できないんですかね・・・?

綿谷 やっぱり、この世に未練がある場合が多いですね。それか、自分が既に死んでいることに気づいてなかったりとか。

八神 そういうものなのか・・・すると、彼もやっぱり・・・?

綿谷 彼は・・・この世に未練がある方ですね。僕が察するに、長い間一人だったから、ずっと成仏できなかっただけだと思います。多分、僕らが相手をしてあげたからもう、大丈夫かな・・・?

八神 ・・・俺はほとんど相手してない・・・って言うかしてあげられてないんですけどね・・・でも、心なしか寒気がしますよ。

綿谷 え?でも、今もこうやって膝の上で抱えてあげてるじゃないですか?

八神 うおぉ!!目の前にいた!!?そりゃあ寒気もするわ!!

綿谷 ははは・・・あ、そうか・・・じゃあ、元気でね!

八神 ・・・え?・・・え?

綿谷 ・・・八神さんがあわててるのをみて大笑いしてました・・・多分これで天国へ行けますよ・・・。

八神 俺のリアクションで行って良かったの!?・・・いやもうこの際どうでもいいや!

綿谷 一件落着ですね〜。

八神 ・・・はぁ・・・それより綿谷さんは何でまたあんな森の奥に行ってたんですか?

綿谷 ・・・実は僕、霊媒師というか、そういうのの見習いで、全国のそういう場所を回っているんです。

八神 へぇ〜・・・何とも大変な・・・職業柄ってそういう事か。

綿谷 まあ、こんな職ですから家族も理解してくれなくて。

八神 だから奥さん実家に帰ったんですね・・・。

綿谷 でも、僕がこういうことをして、一人でも多くの霊が無事に天に昇れればいいと思ってるんですよね。まあ、この手帳に書いてある所にこれから行こうと思っているんですけど。

八神 ほとんど旅人みたいだな。ちょっと手帳見せてもらっていいですか?

綿谷 どうぞ。

八神 ・・・うわぁ〜・・・この土地の名前とかが所謂・・・出る?ポイントなんですね?

綿谷 そうなんです。まあ、詳しい住所とか分かってる所もあったり、漠然とした地域しか調べられてない所もありますけどね。

八神 うわ、ここ何て電話番号が書いてあるけど・・・通じるんですか?

綿谷 結構つながったりすることありますよ?さて、僕もぼちぼち行きますか。

八神 そ、そうですか・・・気をつけて・・・いろんな意味で。

綿谷 はい。では、失礼しま・・・あ、さっき言ってた消火器で殴るって・・・?

八神 ・・・あ!じ、冗談ですよ!そんなことできるわけないじゃないですか!

綿谷 ・・・まあ、殴れた方が良かったもしれない・・・失礼します。

八神 ・・・変な人がいるもんだなあ・・・スマホ見るか。

(ピッ)『・・・その交番には、今でもお巡りさんが火事に巻き込まれて亡くなった事に気づかずに、勤務を続けているそうです。そして、夜中に電話をかけると・・・』

八神 ・・・ん?





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