リトライ×2

綿谷 ま!待て!早まるな!

八神 うるせえ!何を言われたって無駄だ!俺はここから飛び降りてやる!!

綿谷 そんな事をして何になる!残された家族の事を考えろ!

八神 俺には家族なんていない!!恋人も!友達も!!

綿谷 そんな事言うなよ!!待ってろ!今からそっちに行くから!!

八神 来るな!!何度言ったって変わらないぞ!!俺は人生に疲れたんだ!

綿谷 そういう事言うな!兎に角考え直せ!

八神 うるせえ!見ず知らずのあんたに何が分かる!

綿谷 待ってろ!今からそっちに行くから!

八神 来るなって言ってんだろうが!!もう一歩でも近づいたら飛び降りてやる!

綿谷 ・・・。(ジリ)

八神 来るなって言っただろうがぁぁぁぁぁ!!!(タンッ)

綿谷 あっ!!うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!









綿谷 ま!待て!早まるな!

八神 うるせえ!何を言われたって無駄だっ!俺は・・・ここから飛び降りてやる!!

綿谷 そんな事をして何になる!残された家族の事を考えろ!

八神 ・・・・俺には・・・家族なんていない!!恋人も!友達も!!

綿谷 そんな事言うなよ!!待ってろ!今からそっちに行くから!!

八神 いやいや!来るな!!何度言ったって変わらないぞ!!俺は人生に疲れたんだ!

綿谷 そういう事言うな!兎に角考え直せ!

八神 本当にうるせえ!見ず知らずのあんたに何が分かる!

綿谷 待ってろ!今からそっちに行くから!

八神 だから来るなって言ってんだろうが!!もう一歩でも近づいたら飛び降りてやる!

綿谷 ・・・。(ジリ)

八神 来るなって言っただろうがぁぁぁぁぁ!!!(タンッ)

綿谷 あっ!!うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!









綿谷 ま!待て!早ま・・・

八神 下手くそかぁ!!!

綿谷 え!?な、何が!?

八神 お前の説得!下手くそかあ!!

綿谷 え!?どういうこと!?

八神 俺がこっから2回とも飛び降りようとして!2回とも結局飛び降りたぞ!お前何しに来たんだよ!!

綿谷 す、すみません!・・・僕もいきなりこんな場面に出くわすとは思わなくって。

八神 いやいや!2回目は予測ついてただろ!?何でもっと言葉巧みに止めようとしない!?

綿谷 そ、そんなにひどい説得でした!?

八神 酷かった!これは酷い!ちょっとやり直してみ!?

綿谷 え!?やり直し!?

八神 あれだろ!?最初俺がこの屋上の手すりを乗り越えた所でお前が来たんだろ!?

綿谷 は、はい・・・そうでしたね・・・。

八神 まあ、そっちが驚いたのは無理もないよな!飛び降りようとしてるんだもの!見ず知らずの男がビルの屋上から飛び降りようとしてるんだもんな!

綿谷 え、ええ・・・で、でも、見ず知らずとはいえ、止めないといけないって言う思いがまず出てきまして・・・。

八神 それは凄く正しいんだよ。まあ、人として当然っちゃあ当然かもしれないけどな・・・その後がまずかった!非常にまずい!あんなもん誰でも死ぬぞ!この人殺し!

綿谷 そこまで言う!?僕は良かれと思ってやったのに!

八神 最初あんたなんて言った!?

綿谷 え?え〜っと・・・確か・・・「そんな事をして何になる!残された家族の事を考えろ!」って言いました。

八神 まあ、ベタだけどそれは正解だよ。家族への愛情とかは普通の人間なら持っていて当然だからな。

綿谷 あ、ありがとうございます・・・。

八神 でもさー、俺って孤児じゃん?

綿谷 ・・・いや知らないっすよ!初対面って自分でさんざん言ってたくせに!

八神 とにもかくにも俺は孤児で親の顔はおろか親戚一人もしらねー状態で今日まで生きて来たんだわ〜。

綿谷 そ、そうだったんですか・・・。

八神 その俺に向かって家族がいるでしょうは禁句だろうに。

綿谷 ・・・なんかすみません。でも、恋人や友達がいないのは別問題なんじゃあ・・・。

八神 ・・・。(タンッ)

綿谷 あっ!!うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!









八神 傷口をえぐるなよ!

綿谷 す、すみません!

八神 そりゃあまあ言ってる事自体は当たってるかもしれないけど、今言っちゃあ駄目だろ!

綿谷 た、タイミング悪かったですかね・・・。

八神 一番言っちゃいけないタイミングで一番言っちゃいけない事言われたらそりゃあ飛ぶわ!

綿谷 え〜っと・・・そこについては・・・触れないようにします!

八神 おう・・・そんで、次は?

綿谷 えっと、「そんな事言うなよ!!待ってろ!今からそっちに行くから!!」って。

八神 まあ、引きとめる気があるんだったら、止めようと近づくのは間違ってはいない。

綿谷 ですよね!?間違ってはないですよね?

八神 間違ってはないけど、俺はその後、「来るな!!何度言ったって変わらないぞ!!俺は人生に疲れたんだ!」って答えたんだよな・・・それに対して、何でフォロー入れないの?

綿谷 ・・・あぁ、「人生に疲れた」っていうことに対してですか?

八神 そう!それに対してそんなことないって言うコメントを残してくれないと飛ぶわ!

綿谷 えぇ〜・・・難しいっすよ〜・・・確かに人生に疲れる時ってあるけど〜・・・。

八神 うん・・・じゃあさ、お前のその疲れた瞬間とかを教えてくれよ。

綿谷 身の上話って言う事ですか?

八神 そうそう!それ聞いたら、俺の人生の悩みなんて大したことがないって思えるかもしれないし。

綿谷 あぁ・・・まあ、それだったら僕自身が少し辛いかもしれないけど・・・人助けの為と思って話しますね・・・。

八神 おう!頼むよ!

綿谷 ・・・あの〜・・・僕、この間家に帰って、冷蔵庫を開けたんですよね。

八神 うん・・・。

綿谷 そしたら、昨日買っておいた牛乳のパックが倒れていまして・・・。

八神 ・・・。

綿谷 凄い・・・ショックだったな〜・・・。

八神 ・・・。(タンッ)

綿谷 あっ!!うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!









八神 ・・・そんなんでショック受けるなよ!

綿谷 いやショックでしょうよ〜!まだ一杯分しか飲んでなかったのに、野菜室まで浸水・・・いや、浸牛乳したんですもん・・・。

八神 仮にショックだったとしても、ビルから飛ぼうってならないだろう!?

綿谷 ・・・まあ、その日のうちに処理したから大事には至らなかったですけど・・・。

八神 そうだろ?お前のショックなんてそんなもんなんだよ!

綿谷 ・・・はぁ・・・。

八神 ・・・思い出して元気なくしてんじゃねえよ!

綿谷 だから嫌だったんですよ〜・・・。

八神 まあ、綺麗になったんだしいいじゃないか・・・っていうか、励ます立場のお前が凹んでてどうすんだよ・・・。

綿谷 そうっすね〜・・・ここについても愚痴を聞くぐらいしかできないかな〜・・・。

八神 いやいや・・・その程度のショックしか感じてないようなやつに俺の辛い事を喋った所で分かってもらえるなんて思えないね・・・。

綿谷 うぅ・・・見ず知らずの上で更に溝が深まってしまった・・・。

八神 そんで、その後俺は「一歩でも近づいたら飛び降りる」って言ったのに何で近づくんだよ!?人の話聞いてんのか!?

綿谷 で、でも本当に飛び降りるとは思わなかったんですもん・・・。

八神 ふ〜ん・・・俺の本気具合が分かってなかったってことか・・・。

綿谷 そ、そういうわけじゃなくて・・・。

八神 まあいいけどさ・・・結果その後中途半端な一歩を踏み出して、俺はこっから飛んだわけだ。

綿谷 ・・・驚きました・・・ただ、もっと驚いた事がありまして・・・。

八神 ・・・なに?

綿谷 ・・・何で死んでないんですか?

八神 ・・・遅っ!!!その件に関するツッコミ遅っ!!

綿谷 早さの問題はこの際置いておいていいんじゃないですか!?って言うかここビルの10階ですよ!?

八神 いやいや!何で2回目に入った時に気にしないの!?

綿谷 正直血まみれで屋上に上がってきた時に驚いちゃいまして・・・。

八神 結局俺は4回もここから飛び降りてんだぞ!?徐々に10階まで来るペースも落ちてきてたの分かっただろ!?お前はお前で毎回1回目みたいなリアクションしてるし!

綿谷 ダメージ自体は蓄積されているんですね・・・そもそも何で生きているんですか・・・?普通なら2回目が無いシチュエーションなんだと思うんですけど・・・。

八神 ・・・多分、俺の体が人の何倍も頑丈だからだろうな・・・。

綿谷 限度って言うものがないんですね・・・。

八神 さ!それじゃあ5回目に入るから!あんたは止めてくれ!

綿谷 ・・・いや、もういいです・・・。

八神 ・・・は?

綿谷 ・・・正直、止めるのめんどくさくなってきました・・・。

八神 え!?今更何言ってんの!?

綿谷 だってそうでしょう!?

   僕は偶々あなたが飛び降りようとしたところに居合わせただけで、こんなに何回も止める必要があるなんて思わなかったです!

   それに、飛び降りた所でどうせ生きているんでしょう!?

   時間がかかるだけじゃないですか!

   もっと言えば、あんたは何とかして止めてもらいたいだけに思えますよ!!

   ただの甘えじゃないですか!

   そんな傲慢な態度だから友達も恋人もいないんですよ!

   あとあんたは正直生きててもしょうがないでしょう!

   悲しむ人がいないんだったらもう死ぬまでここで飛び降りて登っての繰り返しでもしてろよ!!

   何回も説得しなきゃならないこっちの身にもなれよ!

   僕は関係ない!!

八神 ・・・。

綿谷 ・・・どうしたんだよ!?早く行けよ!

八神 ・・・。

綿谷 ・・・行かないんなら早く帰れよ!

八神 ・・・帰る・・・やっぱり、今日は死なない・・・。

綿谷 何でちょっと泣いてんだよ!

八神 だ、だって・・・あんなにぼろかすに言われるとは思わなくって・・・。

綿谷 ・・・まあ、飛び降りるのをやめてくれてよかったかな・・・。

八神 あ、ありがとう・・・。

綿谷 じゃあ、そういうことで・・・。

八神 ・・・あれ?どこ行くんですか・・・?

綿谷 じゃあ、ここから飛び降りるんで、止めたりしないでくれよ。

八神 え?

綿谷 そのために来たのにあんたがゴチャゴチャやってたのが鬱陶しかった。

八神 ・・・。

綿谷 じゃ。

八神 ・・・早まるな!!





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