世の中は意外と狭い所で回っている
八神 (ガチャ)・・・どうも。
綿谷 あ、どうもこんばんは。
八神 久しぶりだね・・・。
綿谷 そうですね。1ヶ月ぶりくらいでしょうか?
八神 そうか・・・そんなものか・・・。
綿谷 それで、あれからどうですか?
八神 ・・・今日はね、お礼を言いたくて来たんだよ。
綿谷 お礼・・・?
八神 ああ。あの時あんたからもらったスイッチ・・・あれのおかげで俺は救われたんだよな。
綿谷 本当ですか!?
八神 ああ。最初は押しても中途半端に使えるものが出てくるだけだと思っていたけど、そうじゃなかったみたいなんだよ。
綿谷 そうなんですか・・・よければ、私にも話を聞かせてくれませんか?
八神 もちろん。転機はちょうど3週間くらい前だな。職探しも上手くいかない日が続いていたんだけど、その日を境になんていうのかな・・・運気?が変わったんだよ。
綿谷 具体的に言いますと?
八神 まず、朝郵便ポストを見たら何の気なしに応募した懸賞が当たっていて、5万円が贈られることになったんだよ。
綿谷 凄いじゃないですか!
八神 とりあえず返済が間近に迫っていた借金にあてることができたんだよ。
綿谷 それは良かったですね。
八神 ただ、いいことは続いて、その日に行った会社の面接で、社長にえらく気に入られたんだよな。
綿谷 好感触ですね!
八神 後から知ったんだけど、社長は通称「フィリピンパブのスーパーヒトシ君」らしいんだよな。
綿谷 変なあだ名・・・まあ、関係ないですね。
八神 小さな会社なんだけど、2週間くらい前から働いているんだよ。
綿谷 とんとん拍子ですね!
八神 しかも、その会社に勤めているOLが、高校の時の同級生で・・・その、な?うん・・・。
綿谷 ・・・あ、左手の薬指に指輪が!!
八神 まあ、そういう関係になったわけで・・・。
綿谷 おめでとうございます!!
八神 やっぱり、プレゼントをしたって言うのがよかったな。
綿谷 何を差し上げたんですか?
八神 漢検の問題集。
綿谷 また渋いですね!?
八神 でも、凄くやりこんでいるみたいだったし、気に入ってくれたんだよ思うよ。
綿谷 本当によかった・・・。
八神 でもさ、何で社長が俺のことを初対面から気に入ってるのかだけは今一つ分からなかったんだよな。
綿谷 確かに、面接を受ける前から印象が良かったっていうのが謎ですよね。
八神 その謎も全て解けたんだよな。
綿谷 お!なんか金田一少年の事件簿みたい!
八神 1週間くらい前に、職場に社長のお孫さんが来たんだけど、見覚えがあってな。
綿谷 お孫さんにですか?
八神 その孫って言うのが二人いて、一人が中学生で「あ、就職できたんですねー!」って言ってきてな。
綿谷 なんか・・・馬鹿にされたないっすか?
八神 それはまあどうでもいいんだよ。むしろもう一人いた小学生の子の方が声をかけてくれてね。
綿谷 何て言われたんですか?
八神 「あの時の傷パワーパッドのお兄ちゃんだ!」
綿谷 ・・・そこだけ聞いたら何がなんだ分かりませんね。
八神 まあ、以前傷の手当てをしやったのを覚えていてくれたみたいで。
綿谷 へぇ〜!
八神 しかも、その時撮った写真を爺さんに見せたら、爺さんがその人にお礼をしたいってずっと言ってたって言うんだよ。
綿谷 何で写真撮られたんだろう・・・あ、そのおじいさんって言うのが・・・。
八神 そう!うちの社長だったわけだよ!
綿谷 本当ですか!?
八神 本当に本当!それからというもののテンション上がりまくりだわ!
綿谷 そんなに元気過ぎると、かえって夜も眠れないんじゃないですか?
八神 いや、それが新しい枕にしたらぐっすり眠れるんだよ。
綿谷 むむぅ、まさに向かうところ敵なしの状態・・・!
八神 いや〜、世の中は実に狭いところで回っているなあ!!驚いたよ・・・どれもこれもあんたからもらったスイッチのおかげかもな。
綿谷 いえ、そんなことはないです。もともと、あなたにはそれくらいの者を手にする価値のある人間だったということです。
八神 そう言われるとなんだか照れるな・・・。
綿谷 でも、先月来た時とは顔つきもだいぶ変わりましたよね。
八神 まあ、なくしたものすべてを取り戻したからな。新しい仕事できたし、愛する人もできた。お金は少し時間がかかるかもしれないけど、これから頑張って借金返して、結婚式を盛大に挙げるつもりだよ。
綿谷 夢もできましたね。順風満帆じゃないですか!
八神 ・・・いや、待てよ?
綿谷 どうされました。
八神 ここ数日のでき過ぎた状態で浮かれていたが・・・俺には今友達が一人もいない・・・。
綿谷 ・・・離れて行ったお友達は?
八神 連絡が付かないんだ・・・多分、あんな縁の切り方をしたから、向こうも応答しづらいんだろうな・・・。
綿谷 そうですか・・・。
八神 あ、そうそう、今日はお礼のほかにもう一つ用があったんだよ。これをあんたに返したくて。
綿谷 え?いいんですか?
八神 それに、最近は困ったことがあってこのスイッチを押しても何も起きないんだ。きっと、今の俺にこれはぜいたくすぎるんだよ。
綿谷 ・・・。
八神 ・・・まあ、いなくても最悪困らないものだけどな・・・ハハハ・・・。
綿谷 ・・・最後に、このスイッチ、1回押していただいていいですか?
八神 は?なに言ってんだよ?もう俺が押しても何も起きないんだって。だから、今度来た人にでも・・・
綿谷 いいから!
八神 な、なんだよ・・・分かった、押すよ!(カチッ)
二人 ・・・。
八神 ほら、何も起きねえじゃねえかよ!
綿谷 ・・・結婚式。
八神 え?
綿谷 いつ頃になりますか?
八神 ・・・まだ決まってないけど、招待状出すよ。
綿谷 待ってます!
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