義理の親子

綿谷 (ガチャ)・・・ただいま。(バタン)

八神 おかえり・・・あ、ちょっと待って。大事な話があるんだ。ここに座って。

綿谷 ・・・。(ドカッ)

八神 俺たちが親子になってから、どれくらいたった?

綿谷 ・・・3か月。

八神 そうだね。再婚をしてからもうそんなにたつ。だが、俺はいま名字で呼ばれている。

綿谷 それが?

八神 うん、確かに年が20も離れている男がいきなり家族として同じ屋根の下で生活するのは違和感があるよね。まして片方が年頃ならなおさらだ。

綿谷 ・・・で?

八神 最初は俺自身がそうだった。でも、このままでいて何になる?俺たち2人がけじめをつけなければ、母さんもかわいそうだろう?

綿谷 だからなにが言いたいんだよ!?

八神 俺のことをちゃんと名前で呼んでくれないか・・・父さん!

綿谷 父さんって呼ぶんじゃねえ!

八神 なんでだよ!父さんが母さんと結婚する時、俺が・・・息子の俺がいるっていうことは知っていたんだろう!?

綿谷 ああ、知っていたさ!知っている上で僕は結婚をしたよ!ただ、僕は君を息子と認めることはできない!!

二人 ・・・。

八神 おかしくね?

綿谷 何が?

八神 何ていうか・・・普通逆じゃね?

綿谷 逆?

八神 普通さ、再婚した夫婦に俺みたいな息子がいたら、義理の父に息子が衝突しながらも親子の絆を深めていくって感じになると思うんだけど。

綿谷 そうだな。まあ、そんなのドラマだけどね。

八神 父さんは何なんだよ?なんで俺のほうから問題解決に取り組まなきゃならないんだよ?俺、15歳だぞ?

綿谷 ああ。そして僕が35歳だ。

八神 なんでアラサーの父さんが半分も生きてない俺に説得されてんだよ?母さんも「父さんと早く仲良くなって!」って、何で俺に言うんだよ?

綿谷 まあ、僕がフレンドリーになる雰囲気を出していないからじゃない?

八神 だよね?俺と距離を置いてるよね?何で?

綿谷 ・・・じゃあ、逆に言わせてもらうけど、僕だってそういうシチュエーションに憧れてんだからね?

八神 は?

綿谷 だから、義理の父と息子の衝突、問題、殴り合い、男同士の友情・・・僕だってそういうのに憧れっからね!?

八神 へ?・・・え〜っと、つまり俺と衝突したかったってこと?

綿谷 そうそう!君の母さんから15歳の息子がいるってことは聞いたしそれを聞いて僕はドラマでしか見たことにない「義理の親子の衝突」って件を実現できると思ってたんだよ!

八神 はぁ・・・さっきドラマだけとか否定的な意見を言っていたのに・・・。

綿谷 それがどうだ!君ときたら「新しい父」っていう厄介者レベルMaxの僕に早々と対応してきただろ!?

八神 まあ、初めて会ってから3日くらいでお父さんって普通に呼んでた。

綿谷 でしょ!?それにその落ち着いた立ち振る舞いと律儀な言葉遣い・・・本当に15歳?

八神 うん。今年中学3年の受験生だけど・・・。

綿谷 揺れる思春期の義子っていうのが潰えたからな・・・僕としてはギロチン刑に値するくらいの子を注文したかった所なんだけど。

八神 悪さのメーター降り切れすぎだろ!逆にそんなやつがいたら母さんと結婚しなかっただろ!?

綿谷 だったら僕のほうから距離を置いてみるかって思ったんだけど。

八神 やっぱり・・・てか最初のころはちゃんと名前で呼んでくれてたよね?

綿谷 酒とか煙草とか始めたり、帰る時間とかを遅くしたりしたんだけど、大してリアクションしてくれなかった・・・。

八神 まあ、酒も煙草も普通にやっててもおかしくないだろうし、仕事が忙しいと思って、なるべく話しかけないようにしてたんだけど。

綿谷 逆効果だったのか・・・。

八神 ここ最近の冷めた態度は意図的なものだったのか・・・。

綿谷 母さんに、なぜ君がこんなに落ち着いているのかを聞いてみたら、「あの子にはずっと父親がいなかったから・・・普通の子よりも甘えたりしないで育ってきたのよ。」って布団の中で言っていた。

八神 布団の中?

綿谷 まあ、厳密にいえば「布団の中にいる僕の腕の中」だけどな・・・1番の甘えん坊は母さんだな。

八神 息子の前で何言ってるんだよ!?ってかそんなシーン想像もしたくねえ!

綿谷 「あの子にもきょうだいがいれば良かったのに・・・。」「大丈夫、まだ間に合うよ。彼にも弟か妹をプレゼントしよう!」そんな家族計画が持ち上がっちゃって・・・。

八神 1回その話やめて!・・・いや、息子の前でしないでくれよ!

綿谷 まあ、興奮していらんことを言ってしまったが、この3カ月君を見てきて分かったことは煙草も酒も薬もやらない母親思いのいい息子ってことだ・・・。

八神 ・・・。

綿谷 ようやく目が覚めたよ。そんなことに憧れていた自分が恥ずかしい・・・。

八神 ・・・言ってくれればいいのに・・・。

綿谷 え?

八神 言ってくれれば俺、不良少年を演じるけど・・・?

綿谷 マジでか!?

八神 全然いいよ。義理の親父として俺のこと更正させたいってことでしょ?

綿谷 うん、まあそうなんだけど・・・。

八神 だったらやってあげるよ。うまくできるか分からないけど。

綿谷 本当に!?じゃあ、早速だけど設定を決めようぜ!じゃあ、キョウスケくんが玄関から入ってきて。そしたら僕が「今何時だと思ってるんだ!」ってつっかかるから。

八神 分かった・・・てか、もう普通に名前で呼んでくれてるね・・・じゃあ、外行ってくるから。あ、後もう少し声を抑え目にした方がいいよ。もう夜遅いし・・・。(ガチャ バタン)

綿谷 注意するはずが注意された!?





八神 (ガチャ)ただいま〜。

綿谷 ストーップ!

八神 うわっ!何!?

綿谷 ダメだろ不良少年が「ただいま」って言っちゃ!

八神 あ〜!そっかそっか。

綿谷 もう、無言で入ってきて!

八神 わかった。じゃあ、もう1回。(ガチャ バタン)





綿谷 よーい・・・はいっ!

八神 (ガチャ バタン)・・・。

綿谷 キョウスケ!いま何時だと思ってるんだ!?もう夜中の2時だぞ!!

八神 ごめんなさい・・・。

綿谷 いや、謝っちゃダメ!

八神 あ!しまった!ここは何ていえば?

綿谷 「うるせえなあ」とか、とにかく反発して反発!

八神 反発って言ったってなあ・・・う、うるさいですよぉ・・・。

綿谷 反発が微妙!敬語になってるし・・・低反発!あ、低反発発言だ!

八神 ・・・うるせえなあ。

綿谷 あ、今のは素で言われた気がする。

八神 う〜ん・・・不良なんてやったことないからなあ。っていうか、ああいうのってやろうと思ってやるわけじゃないよね?

綿谷 まあ、無理してやることじゃないからなあ。不良なんて負えないものだし・・・ゲホッ!ゲホゲホ!!

八神 ちょ、大丈夫?きゅうに咳き込んだりして?

綿谷 ああ・・・最近なれない煙草とか酒とかやってたから体調悪いんだよ。

八神 自業自得っていうかなんて言うか・・・。

綿谷 仕事にもあまり手が回らなかったから、おかげで会社ではこの間の人事で降格を食らったよ。

八神 えぇ!?大丈夫なのそれ?

綿谷 この不景気の折、窓際で済んでよかった。

八神 下手すりゃクビになってた!?何をやらかしたのさ!?

綿谷 この間の死刑執行に失敗しちゃってね。

八神 何の仕事してるんだよ!?てか俺と母さんの生活を支えなきゃだめな立場なんだから・・・それに、俺の教育費とかも増えるよ?高校に進学するつもりだし。

綿谷 僕の設定としては中学にもろくに行ってない不良っていう息子だったから、高校でお金をかけるっていうよりも大工とかになって生計を立ててくれると思ってたんだけど?

八神 勝手に中卒の設定にされるところだった!?っていうかさっき受験生って言ったけど、もう一般推薦で高校行くと決まってるからね?

綿谷 なんてこった!ここまで優等生とか信じられないぜ!くそったれ!!

八神 ・・・ふざけるなよ・・・?

綿谷 え?

八神 そんな下らないことのために降格か?俺たちの生活はどうなるんだよ?

綿谷 キョウスケくん?

八神 あんたが体を壊したって、どうってことはないけど、そんなダメな男と再婚した俺の母さんはどうなるんだよ!?

綿谷 ぼ、僕はただ君の気を引きたくて・・・

八神 知るかそんなこと!とにかく俺は、あんたがそんなやつだとわかった以上あんたを父だなんて認めない!こんな家出てくよ!!

綿谷 おい、ちょっと待って・・・(ガシッ)

八神 離せよ!こんなやつと母さんが結婚するなんて・・・きっと母さんは騙されてるんだ!!

綿谷 いいかげんにしろ!(パンッ!)

八神 ・・・!

綿谷 ・・・いきなりクラッカー鳴らして悪かった・・・。

八神 ビンタジャねえのかよ!俺ちょっとびっくりしただけだわ!

綿谷 馬鹿野郎!(ビシッ!)今度は殴ったぜ。

八神 っつ!何その説明口調・・・?そんでこの微妙なタイミングで殴られても・・・。

綿谷 変なタイミングで殴ったりして悪かった・・・ただ、誤解しないでくれ。僕は君の母さんにことだけは騙してなんかいない。

八神 殴ったこと自体に悪意はないのかよ・・・そして他に幾人か騙してるっぽい言い方だな。

綿谷 君の前の父親のことは聞いている。本当のお父さんは君がまだ生まれて間もないころに出て行ったんだよな?女ったらしだったそいつが新しい女を作って、母さんには莫大な量のにんじんを残して出て行った。

八神 俺の親父人参嫌いだったのか・・・そんで母さんも片づけろよ・・・。

綿谷 でも、君の母さんはめげなかった。その時5歳になったばかりの君を女手一つで育て上げてきたんだろ?

八神 5歳って生まれて間もないころに入るの?

綿谷 今、君が家を出て行ったら・・・母さんはどう思う?きっと悲しむだろう。

八神 母さん・・・。

綿谷 そして、そのストレスを僕にぶつけてくるだろ?僕自身はいま物凄く体調悪いから・・・下手したら死ぬ。

八神 え?結局自分の心配なの?

綿谷 今年で15歳なんだろ?これからは君が母さんを守っていかなければならない時期なんだ・・・僕にもその手伝いをさせてくれ・・・キョウスケくん!

八神 今一つ腑に落ちないけど・・・ああ、なんだかいい空気に負けそうだ・・・お、お父さん!





八神 こういう感じのをやりたかったの?

綿谷 そうそうそう!!やればできるじゃん反発息子を!

八神 良かった〜!なんか変な感じになるかと思ったけど!

綿谷 僕も急に入ってくるから超ビビったし!

八神 いや、本当にいい親父っぷりを発揮してたよ・・・痛った〜・・・!

綿谷 あ、大丈夫!?さっき思いっきり平手を食らわしちゃったけど!

八神 ヘヘッ・・・いいもん持ってんじゃん!

綿谷 あぁ〜!いいよ!その台詞いいよ!!

八神 まあ、ぶっちゃけクラッカーのせいで鼓膜が痛いんだけど・・・これで満足できたよね?

綿谷 うん!これで正式に・・・あ、そうだもうひとつだけお願いがあるんだけど・・・。

八神 え?

綿谷 僕さ、見ず知らずの男に対して「うちの娘はやれん!」って台詞言ってみたいんだよね。

八神 ・・・いや・・・俺、男だし。

綿谷 そうか・・・娘がいないとな・・・じゃあ、この後母さんと・・・

八神 言うんじゃねえよそういうこと!





back
next